「音夢の会」は坂田梁山先生(尺八)の門下生と、坂田美子先生(琵琶)の門下生の合同発表会です。
多くのお弟子さんたちが各地から集まり、お互いの演奏を聞き合い、友好を深める日でもあります。
お忙しいにも関わらず毎年発表会を開催してくださる先生方には本当に感謝しかありません。
私は「滝口入道と横笛」という曲を演奏させていただきました。
5年前にも発表会にて演奏させていただいた曲です。
稲葉美和先生の”二十絃箏”と坂田梁山先生の”尺八”の旋律が美しくて、「なんて贅沢なひと時だろうと!」幸せを噛みしめながら演奏いたしました。
本当に素敵な曲なのです。
残念ながら音色はお届け出来ませんので、物語のあらすじをご紹介させていただきますね。

「滝口入道と横笛」
平安時代、この世の春を極めたであろう平清盛。
その清盛の館にて、花見の宴が催されていた。
散り行く桜を惜しみながら興に酔う人々。
その宴の最後に一人の女性が舞を舞う。
彼女の名は横笛。建礼門院に仕える女官であった。
横笛のたおやかな舞、ウグイスのように澄んだ歌声。
人々は陶然として時を忘れたように静かに見入り、やがて感嘆の声が一斉に響いた。
その夜から横笛のもとには多くの武士から恋文が届くようになる。
しかし横笛は「所詮はひとときの遊び心」と相手にしない。
ただ斎藤時頼という武士からの文だけは絶えることなく重なり、横笛もいつしか心惹かれるようになった。
そんな折、ふいに時頼からの文が途絶える。
聞くところによると、身分の違いを父親にとがめられ、横笛への想いを断ち切るために出家をしてしまったとのこと。
時頼は出家により名を滝口入道と改めた。
横笛は滝口入道のいる嵯峨の往生院を訪ねる。
しかし、滝口入道は「修行の妨げになる」と、横笛に会おうとはしない。
そして横笛への未練を断つため、女人禁制の高野山へと身を移す。
滝口入道を慕う横笛は出家し尼となり、高野山に最も近い「天野の里」へと移り住む。
しかし程なくして横笛は病にかかってしまう。
「やよや君 死すればのぼる高野山 恋も菩提の種とこそなれ」
そう言い残し、滝口入道をひたすらに想いながら、横笛はわずか19歳でこの世を去る。

やがて時が巡り、高野山にも春が訪れた。
井戸のそばの梅の木に、美しい一羽のウグイスがとまる。
そのさえずりは大変美しく、滝口入道の心に、かつて清盛の館にて聞き惚れた歌声を思い出させた。
ウグイスはただ一心に時頼を見つめ、か弱き声でさえずると力尽きて井戸に落ちる。
ウグイスが横笛の化身であることに気づいた滝口入道は、思わず駆け寄りその亡骸を井戸からすくい上げる。
「“死すればのぼる”の言葉のとおり、ウグイスに姿を変え我が元へとはるばる飛んできたのか…。」
と、涙をこぼす滝口入道。
そのウグイスの亡骸は阿弥陀如来の胎内に納められたとのこと…。
「平家物語」の巻第十に「横笛」の章段があります。
もしもご興味のある方は是非お読みになって見てください。
斎藤時頼(滝口入道)の横笛への激しい想いが感じられる章段です。
5年前にも演奏させていただいたこの曲を、再び先生方とご一緒に舞台に立たせていただけた喜びはひとしおでした。
滝口入道と横笛の悲恋の物語。
また5年後、演奏させていただけたらと思います。
きっと今よりも上手に歌えるはず(笑)